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猟師の肉は腐らない 小泉武夫

世界を巡った末に、故郷・阿武隈の山奥に戻った猟師の義っしゃん。賢い猟犬をお供に猪を狩り、岩魚を釣り、灰や煙を使って肉を保存し、冬に備え、危険から身を守る。蜂も蝮も木の皮も、なんだってご馳走になる。過酷な自然との暮らしは、現代人が忘れてしまった様々な知恵と工夫がてんこ盛り。食の基本、命の連鎖を身をもって学んだ、驚きの記録。

小泉武夫『猟師の肉は腐らない』(新潮社、2014年)、カバー

新潮社から刊行されている、小泉武夫の『猟師の肉は腐らない』を読んだ。エッセイなのかなと思ったが、どうやら小説らしい。実話を元にしたフィクションといったところか。作者の小泉武夫は食文化を題材とした著書を多く発表している。食の冒険家を名乗り、さまざまな食文化を研究。農学博士で発酵学の第一人者でもある。

本作の登場人物は、食文化や発酵学を中心とした農学者の「俺」と、渋谷の小さな居酒屋で出会った雇われ店主の「義っしゃん」。京都の町の中やギリシャの港町での偶然の再会を経て、故郷の八溝へ戻った義っしゃんを訪ね、八溝山を訪れる「俺」。その山の中で見たこと、聞いたこと、体験したことが、今の日本から消えてしまった貴重なものばかり。夏と冬のそれぞれ数日間、義っしゃんと過ごした「俺」の体験記がほんとうに面白い。

義っしゃんの住んでいるところは、茨城県・福島県・栃木県にまたがる八溝山。車も入れない山奥で、一匹の猟犬「クマ」とともに、猟師をしながら自給自足の生活をしている。

電気や水道、ガスといったライフラインはないが、義っしゃんにそんなモノは必要ない。八溝山には、綺麗な湧き水、さまざまな植物、動物や虫もたくさんいる。そして、義っしゃんには父親や猟師仲間から受け継いだ、豊富な知識がある。そんな義っしゃんの生活力と生命力がとにかく素晴らしい。

また、作中にはさまざまなモノを食す場面が出てくるが、どれもがあまりにも美味しそうに描かれているため、目に前に出されると躊躇してしまうようなモノでも、食べたみたいと思ってしまった。このあたりは、さまざまな食文化を研究している作者ならではの描写力のなせる業なのだろう。

生きることと食べること。自然に対する敬意。命をいただくという感謝の気持ち。そんなことを改めて考えさせられる一冊。

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